心の言葉

人生みちなりでいいのよ

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「輝け!お寺の掲示板大賞 2023」の受賞作をひとつご紹介します。

多くの人が、「自分だけの道を切り開くこと」こそが価値のあることだと考えがちですが、実は「すでに誰かが歩んできた道をなぞること」も、それ以上に難しく、そして意味のあるものなのかもしれません。

「みちなり」とは、「道なり」、つまりすでに存在する道に沿って進むことを指します。しかし、これは単に受動的に流されることを意味するのではなく、先人たちが築いてきた知恵や経験に学び、それを活かしながら歩むことだと考えられます。
歴史を振り返れば、どんな偉大な人物も、決して完全に「新しい道」を歩んだわけではありません。むしろ、彼らは過去の知恵を受け継ぎながら、それを少しずつ発展させ、自分なりの工夫を加えてきました。その意味で、「みちなり」とは、単に「同じことをする」のではなく、先人たちが築いてきた道をしっかり理解し、その上で自分なりの歩み方を見つけることだと言えるでしょう。

例えば、伝統的な職人技や芸術、あるいは学問の世界では、先人の築いた技術や知識に学び、それを継承することが求められます。しかし、それは単に真似をすればいいという話ではなく、長い時間をかけて理解し、自分の中で昇華する必要があるのです。一見「同じ道」を歩んでいるように見えても、実際にはその道を歩みきること自体が大きな挑戦なのです。そこにはすでに基準があり、比較対象があり、時に厳しい評価が伴うため、その過程には多くの困難が待ち受けています。ですが、先人達が歩んだ道には、過去の知恵や経験が刻まれています。それを参照しながら進むことで、無駄な失敗を避けたり、より良い選択をする手がかりを得たりすることができます。つまり、「みちなり」というのは、人生における最良の手引きであり、安心して進むことのできる道なのです。

現代では、「個性的であること」「誰とも違う生き方をすること」が重視されがちですが、実は個性とは、ゼロから生まれるものではありません。むしろ、既存のものを深く理解し、その上で自分なりの工夫を加えることで初めて、本当の意味での個性が生まれるのです。
茶道や武道、音楽、料理といった分野では、「型」を学ぶことが重視されます。最初から自由にやるのではなく、まずは先人たちが作り上げてきた枠組みの中で学び、その本質を理解したうえで、そこから少しずつ自分らしさを加えていく。これこそが、「みちなり」という考え方の核心なのではないでしょうか。

さらに、この言葉には「焦らなくていい」というメッセージも込められているように思います。
「成果を出さなければならない」という思いから、「早く自分だけの特別な道を切り開かなくては」と焦りを感じることがあります。しかし、人生は必ずしも特別な道を行く必要はなく、むしろ既存の道をしっかりと踏みしめながら進むことで、結果的に自分にしかできないことが見えてくるのかもしれません。そう考えると、「みちなり」というのは決して受け身の姿勢ではなく、「しっかりと歩むことの大切さ」を示しているとも言えます。

「みちなりでいい」という言葉は、「何も考えずに流される」ことを勧めているのではなく、「先人達が歩んだ道を歩むことの価値」を伝えているのでしょう。誰かが歩んできた道は、「ただの繰り返し」のように思えるかもしれませんが、実際にはそこに多くの知恵と工夫が詰まっています。そして、それをしっかりと受け継ぎながら、自分のペースで歩むことこそが、最も確実で、そして最も自分らしい生き方につながるのではないでしょうか。

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